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雨の記憶(2017末) - masakado ページ16

( you side )





人生をかけようと思っていた。
そのために諦めたものもあったけど
私にとっては最良の選択だったと思う。
ずっとアイドルでいたかったし
ステージに立っていたかった。
そのために歌もダンスもやってきたのに……。

事務所で初めての女。
ましてや私は男として活動をしてきた。
そこまで応援してきてくれた人を
一度裏切ったも同じだった。
だからもう絶対に期待を裏切らないように。
しんどいこともあったけど、
必死にしがみついてやってきたつもりだった。

……だけど、
居場所はなくなってひとりぼっちになった。
心配をして電話をしてきてくれた丈くんから
「帰ってきたらええやん」
って言われて、流されるように「うん」って返す。

たくさん来た心配の連絡は
上手く返すことができなくて
未読のまま溜まってきていた。

両親にも今日帰るとは伝えず
最低限の荷物だけで衝動的に新幹線に飛び乗る。
新幹線の中で、未読にしていた連絡の1件を開いた。
あいかわらず丁寧な言葉を選ぶ相手とのやりとりを
少し遡って読み返したら泣けてきた。
グループが解散して、
私だけが取り残されて、
その事実と直面してからやっとちゃんと泣けた気がした。

それまでの会話を無視して
『今日、駅まで迎えに来れたりする?』
と打ち込む。
送ったはいいけど、返信は見ずにトーク画面は閉じた。





その日の大阪は雨だった。
どしゃぶりと言えるくらい本降りの空を見上げて
いたら聞き慣れた声に名前を呼ばれる。

  「りり?」

傘を差した彼の姿が視界に入った瞬間
自分が傘を持っていないことも無視して
正門のもとに駆け寄った。

正門「りり!?」

驚いたのか焦ったのか
先ほどより大きな声で名前を呼ばれる。
こっちに寄ってきてくれる正門の胸に
体当たりでもするように飛び込んだ。
私より背の高い彼の首に腕を伸ばして
背伸びをすると思いっきり抱きつく。
そしたら正門の匂いがして安心した。

『良規』

正門「うん?」

傘を私のほうに傾けて、
もう片方の手が私の背中に添えられる。

『良規……』

正門「うん。おかえり」

もう泣いていたのか、
正門の声を聞いたら涙が出たのか
どっちなのかわからない。
腕の力を緩めて、
ぐちゃぐちゃであろう顔で正門を見る。
近い距離で目があって、

気がついた時には
まるで壊れ物にでも
触れるかのように口づけをされていた。
一瞬だけ触れた唇が離れて、
今度はどちらともなくもう一度キスをした。

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作者名:くー | 作成日時:2023年11月15日 12時

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